「ジオパーク(Geopark)」について

    
64回(昭和32年卒) 渡部  功
 
「ジオパーク(Geopark)」について
≪ジオパークとは≫
 今年3月、『ジオパークで学ぶ/観光地の自然学』(小泉武栄(こばやし たけえい)著、2013年3月18日、古今書院)という「ジオパーク」に関する書籍が発行され、また、新聞紙上でも「ジオパーク」という見出しの記事をよく見かけるようになりましたが、その存在を知らない人は、まだ多いのではないでしょうか。
 今回は、独立行政法人科学技術振興機構のホームページや『月刊地域づくり第 268号(平成23年10月特集)』(一般財団法人地域活性化センター)などを参考に、「ジオパーク」について調べたことを皆さんに紹介してみたいと思います。
 「ジオパーク」という言葉は、「 Geology(地質学)」と「Park(公園)」とを組み合わせた造語で、日本語としては「大地の公園」、「大地の遺産」、「地質遺産」などとも表現されます。「国連教育科学文化機関(ユネスコ)」が2001(平成13)年に提唱した、世界遺産の地形・地質版で、2004(平成16)年に「世界ジオパークネットワーク(Global Geoparks Network=GGN)が設立され、各国から「世界ジオパークネットワーク」に加盟申請されたジオパークの中から「世界ジオパークネットワーク」が「世界ジオパーク」を認定するものです。
 「ジオパーク」は、科学的に貴重な地質・地形や、景観として美しい地形・地質を活かした「大地の公園」なのですが、その内容は地形・地質にとどまらず地形・地質の上に成立した特異な生態系や人間が作り出した生活様式、棚田のような文化景観、あるいは神社などの歴史遺産も含むものとしています。
 「ジオパーク」の認定目的は、貴重な地形・地質などの保全が第一義ですが、同時に地球科学や環境問題、防災などといった様々な観点からこれらを研究や教育に役立てることにもあり、また、これらを持続的に観光的に活用して地域経済を活性化する目的も持っています。そして、「ジオパーク」は、「この山岳や海岸はなぜこのような形をしているのだろうか、この植物はなぜここに生えているのだろうか」というふうに、ただその地域の自然景観を見て楽しむだけの観光ではなく、地形、地質、森の木々や植物、滝、棚田、神社など面白そうなものを見つけて、何故それが出来たのかを頭と身体の両方を使って観光するということになります。
 そのために、「ジオパーク」としての認定を受けた地域では@環境の保全活動とあわせて、A観察のための通路・案内板の設置やB現地見学(ジオツアー)のガイドの育成なども行うことになります。
 「ジオパーク」認定までの仕組みですが、日本では2008(平成20)年に国内認定機関である「日本ジオパーク委員会(Japanese Geoparks Committee=JGC)」が発足し、同年に「日本ジオパーク委員会」が認定した地域により2009(平成21)年にNPO法人(Not-for profit Organizaition=NPO=特定非営利法人)である「日本ジオパークネットワーク(Japanese Geoparks Network =JGN)」が設立されました。そして、「日本ジオパークネットワーク」加盟地域は、「日本ジオパーク委員会」の審査を受け、推薦を受けると「世界ジオパークネットワーク」への加盟申請を受けることができます(ただし、2008(平成20)年はJGN設立前であったため、「日本ジオパークネットワーク」加盟認定と「世界ジオパークネットワーク」加盟申請への推薦の審査が同時に行われ、「洞爺湖山有珠山」(北海道)、「糸魚川」(新潟県)、「島原半島」(長崎県)の3か所が「世界ジオパークネットワーク」への加盟が認められ、審査の結果、「世界ジオパーク」となりました。)。
 日本では、「日本ジオパーク委員会」が「世界ジオパーク」の前段階にあたる「日本ジオパーク」の認定と「日本ジオパーク」の中から「世界ジオパーク」へ加盟申請を行う地域の選定を行っています。ジオパークを目指す地域は、先ずその活動を支援するために「日本ジオパークネットワーク」に参加し、「日本ジオパーク」に認定されるための「日本ジオパーク委員会」の審査を受け、「日本ジオパーク」に認定されれば、「世界ジオパーク」への加盟を目指すことになるのです。
≪ジオパーク認定のための審査基準≫
 現在、審査基準の見直しが行われているため、その仔細は不明ですが、伊豆大島観光協会の『News &Topics 』(2010年10月1日)を見ると、過去における「審査基準」は、おおむね次のような内容でした。
1 重要な大地の遺産や文化遺産が「ジオパーク」としての範囲を明確に定めることができ、大地の成り立ちや現在の地学的現象がよく分かる地域であること。
2 自然公園や天然記念物などとして法規制により「ジオパーク」内の自然・文化遺産が確実に保護されていること。
3 博物館やビジターセンターがガイドブックやガイドマップで「ジオパーク」の見どころを分かりやすく提示し解説していること。
4 現地見学(ジオツアー)のための自然観察路、広場などが整備されており、見どころに分かりやすい説明板があること。
5 地元住民が学校教育や講演会などを通じて地元の様々な自然・文化遺産の価値を良く理解していること。
6 地元でガイドを養成し、「現地見学(ジオツアー)」が行えること。
7 「ジオパーク」内の各種遺産を保護・保全しながら地域経済を活性化し、持続可能な地域発展が実現できる見通しがあること。
8 以上のようなことを踏まえ、しっかりした運営組織と運営計画があり、必要な人材を確保できること。その為に、自治体、NPO,企業、各種団体、大学、研究機関等が協力して下からの意見を吸い上げて纏め上げる管理・運営方式(ボトムアップ管理・運営法式)を作り、資金を確保し持続的運営・管理を行える見通しがあること。
≪ジオパークとしての認定地域≫
 ◆独立行政法人科学技術振興機構のホームページを参考に日本における「世界ジオパーク」認定地域を纏めてみると次のようになります(2013年度現在)。
年度 地    域    名 都道府県名
2009 洞爺湖有珠山[変動する大地と人間の共生] 北海道
糸魚川[静岡構造線と日本最古の翡翠文化がテーマ] 新潟
島原半島[430万年前から続く火山活動が生み出した火山と人間の共生] 長崎
2010 山陰海岸[2500万年前に遡る地形・地質の博物館] 京都・兵庫・鳥取
室戸[白亜紀から続く地質・地形と珍しい植物] 島根
2013 隠岐[日本海形成の痕跡を凝縮して体験できる]  
6地域  
 ◆同様に独立行政法人科学技術振興機構のホームページを参考に日本における「日本ジオパーク」認定地域を纏めてみると次のようになります(2013年度現在)。
年度 地    域    名 都道府県名
2008 アポイ岳 北海道
南アルプス[中央構造線エリア] 長野
2009 恐竜渓谷ふくい勝山 福井
阿蘇(平成25年9月24日に「世界ジオパークネットワーク」への加盟推薦が決定した。) 熊本
天草御所浦(あまくさごしょうら) 熊本
2010 白竜 北海道
伊豆大島 東京都
霧島 宮崎・鹿児島
2011 男鹿 秋田
磐梯山 福島
茨城県北 茨城
下仁田 群馬
秩父 埼玉
白山手取川 石川
2012 ゆざわ 秋田
箱根 神奈川
八峯白神(はっぽうしらかみ) 秋田
銚子 千葉
伊豆半島 静岡
2013 三笠 北海道
三陸 青森・岩手・宮城
佐渡 新潟
四国西予(しこくせいよ) 愛媛
おおいた姫島 大分
おおいた豊後大野 大分
桜島・錦江湾 鹿児島
26地域  
 ≪山形県における動き≫
 平成25年7月23日、9月25日10月12日及び11月15日付の山形新聞記事によると、山形県では2013(平成25)年7月22日に山形県の山形市、上山市、宮城県の白石市、川崎町、七ヶ宿町それに蔵王町の3市3町が「蔵王ジオパーク」の認定を目指して、蔵王町の企画に基く関係市町職員による初の学習会が開催しています。この学習会には「日本ジオパーク委員会」委員の中川和之氏と2012(平成24)年に「日本ジオパーク」に認定された「ゆざわジオパーク推進協議会事務局」の沼倉誠を講師に迎え、ジオパーク活動に関する説明と先行地域の取り組みについて説明を受けております。
 また、「月山ジオパーク」の認定を目指して、月山周辺の鶴岡市、庄内町、西川町、戸沢村、大蔵村5市町村と国土交通省の職員による初の学習会が、2013(平成25)年10月11日に西川町において開催されていますが、こちらの方は、「日本ジオパーク委員会」委員の中川和之氏からジオパークの概要について説明を受けるとともに「やまがた『科学の花咲く」プロジェクト・科学の花咲かせ隊養成講座』に関わった山形大学地域教育学部の八木浩司教授から月山周辺の地形の特色の解説を受けています。
 以上のようなことですが、蔵王にあっては火山地形やアオモリトドマツ林で見られる樹氷現象、温泉資源など、月山にあっては偏東豪雪、庄内側の山腹崩壊地形、温泉資源、修験道に関わる文化などが豊富で、両地域とも地形・地質は特異であり、また、多様な植生、人文景観にも恵まれているので、既に蔵王は自然公園法に基づく「蔵王国定公園」に、月山は「磐梯朝日国立公園」の「出羽三山地域」に指定され、かつ、月山周辺は「天然記念物」の指定も受けており、既存の管理体制やインタープリテーション活動などとの調整は必要だと思われますが、「ジオパーク」としても恰好な科学的学習対象となる地域であり、平成25年度の関係自治体の動向から見て、今後認定に向けての動きが促進されていくことと思われます。
≪やまがた「科学の花咲く」プロジェクト・科学の花咲かせ隊養成講座≫
 山形県のホームページによると、この事業は「科学技術振興機構(Japan Science and Technology Agency=JST)」が科学コミュニケーション活動推進のため、科学館、科学系博物館、大学、研究機関、地方自治体が、その特徴を活かし、地域の児童生徒や住民、大人を対象にした科学技術コミュニケーション活動を支援するもので、具体的には体験型・対話型の活動であって、新規性や今後の発展性などが期待でき、これからの科学技術コミュニケーション活動のモデルとなりうる企画を支援費用でもって支援するものです。
 山形県では平成21年6月から平成24年3月を予定期間として、以下のように「やまがた『科学の花咲く』プロジェクト」が実施されました。
事業名 独立行政法人科学技術振興機構(JST)
地域の科学舎推進事業「地域ネットワーク支援」
企画名 やまがた『科学の花咲く』プロジェクト
「科学の花咲かせ隊」養成及び新たな科学の体験手段・機会の創出
期間 平成21年6月から平成24年3月[予定]
提案機関 山形県
運営機関 山形大学
事務局 山形大学SCITAセンター(注)
参加機関 山形県、山形大学、慶応義塾大学先端生命科学研究所、鶴岡工業高等専門学校、山形県産業科学館、山形市理科教育センター、NPO法人小さな天文学者の会、(社)発明協会山形県支部、山形県工業技術センター、米沢市理科研修センター、最上広域市町村組合教育センター、山形県農業総合研究センター・園芸試験場・畜産試験場・養豚試験場、東北文教大学、ざおう温泉観光協会、山形県工業会、山形県環境科学研究センター、山形県立産業技術短期大学校、日新製薬(株)
 (注)理科活動の普及活動を促進するために山形大学独自のプロジェクトである「やまがた未来科学プロジェクト」に基づいて、科学思考能力を備えた将来の山形あるいは日本を支える人材育成することを目的として創設されたものです(scien for Tomorrow In our Area =SCITA )。
 以上に基づく具体的な事業内容は次の通りでした。
 1 科学コミュニケ―タ―(ある分野で情報、知識を持ち、それを広く一般に普及させることのできる人(普及員、解説員)のこと。)の養成及びネットワークの形成で、これには@「科学の花咲かせ隊(初級・中級・上級)」(平成23年度で「蔵王マイスター養成講座」が、平成24年度に「月山マイスター講座」が開催されました。)
 この講座の内容は、「蔵王の講座」の場合、@植物学、A山形県の自然景観、Bエコツーリズムと指導者養成、C地形生態学、D自然環境実習、E火山学、樹氷、温泉と鉱物資源、防災、温泉療法、動物学、温泉地の歴史と観光などが延4回、「月山の講座」の場合は、@山形の自然景観、A月山の火山学、Bエコツーリズムと指導者養成(地形生態学、月山自然環境・エコツーリズム実習)、C月山の地質実習、肘折の地滑り実習、D月山とその周辺の資源、E防災教育、F出羽三山の歴史・山岳巡礼・山岳信仰、G伝統建築及び実習、H温泉療法、I月山の雪及び雪氷実習などが延9回にわたって開催され、「ジオパーク」における現地見学(ジオツアー)のガイドの育成としても役立つ講座内容として実施されました。加えて、「科学コミュニケ―タ―の養成」としては、「星空案内人(星のソムリエ講座」が開催されています。
 2 地域・家庭でできる科学体験ツールの開発
 これに関しては、地域・家庭で出来る科学体験ツールの開発が行われました。これは、「シャボン玉浮遊実験キット」や「電気と光キット」のように地域や家庭で簡単に「科学遊び」が出来るようにキットを開発するものです。
 3 新たな科学コミュニケーション機会の創出
これは、イベントや人々が多く集まる場所での科学体験の催しが開催されました。ショッピングモールや芋煮会場での科学体験、サイエンスカーの地域巡回などがこれに該当します。
2013年11月22日