「近代化産業遺産」に認定された 国指定重要文化財「旧西田川郡役所」や「旧鶴岡警察署庁舎」など |
64回(昭和32年卒) 渡部 功 | |||||||||||||||||||||||||
「近代化産業遺産」に認定された 国指定重要文化財「旧西田川郡役所」や「旧鶴岡警察署庁舎」など 鶴岡市には、明治時代以降の建築物の中で歴史上、芸術上あるいは学術上価値の高いものとして「旧西田川郡役所」、「旧鶴岡警察署庁舎」(現在解体修復中)、「鶴岡カトリック教会天主堂」の三つの建造物が文化庁の「重要文化財」に指定されています。 これらの建築物の内平成20年度(2008年度)に「旧西田川郡役所」と「旧鶴岡警察署庁舎」それに「国指定史跡」の指定を受けている「松ケ岡開墾場」にある「蚕室建築物及び記念館の所蔵物」が経済産業省の「近代化産業遺産」としての認定を受けていることに気づきました。更に、「松ケ岡開墾場」にあっては、文化庁が平成27年度(2015)に創設する「日本遺産」(有形・無形の文化財を中心に、その背景にある歴史的なストーリーを文化庁が認定し、地域の魅力を戦略的に世界へ発信することで、観光などの振興につなげるものを言います。)に認定されるよう「最上川舟運が育んだ文化と景観」とともに認定申請を行いましたが、残念ながら今回はその選に漏れました。 過日マスコミを賑わした桐生市の「冨岡製糸場」や松ケ岡開墾場の「蚕室建築物及び記念館の所蔵物」のような類のものは「産業遺産」として理解しやすいのですが、「旧西田川郡役所」と「旧鶴岡警察署庁舎」のような公的行政機関の建物が産業遺産とされるのは、どのような理由によったものだろうか、と不思議に思いましたので、その理由や認定の経緯などについて調べてみました。今回はこの結果を報告します。 山形県のホームページによりますと、「産業遺産」とは、産業の発展に伴う過去の人々の努力を示すもので、産業活動の結果として残されたものとされています。そして、これらの遺産は建造物や機械だけではなく、産業に関わる人々の人生や、そこに生活する人々の文化なども含み、それらは個人や企業、行政機関などの歴史を表し、貴重な文化財であり、先人たちの知恵や苦労を地域の誇りとして将来に継承していくべきものであると述べています。 産業遺産に関する調査や研究、保存や再利用といった考え方は、ヨーロッパ、とりわけイギリスなどで19世紀後半から20世紀前半ごろにかけて「産業考古学」といった研究分野から始まったもので、産業技術が急速に発展し、技術体系が変化していく過程において、過去の産業に対する関心を深めて研究する学問として始まったようです。そして、イギリスの歴史的建築物の保護というナショナルトラストの考えのもと、産業技術の成果も地域の文化として認識されていきました。 日本では、1990年(平成2)から産業遺産を守るという世界的動向に鑑み、文化庁が「近代遺産総合調査」を開始し、また、1992年(平成4)にはユネスコ[世界遺産条約]が日本でも批准され、2007年(平成19)に島根県太田市の「石見(いわみ)銀山遺跡とその文化景観」が産業遺産として世界遺産リストに登録されています。 このような流れの中、経済産業省が公募に基づき、2007年(平成19)11月30日に33件の「近代化産業遺産群」とこれに付随する「近代化産業遺産群ストーリー」を公表し、「近代化産業遺産群」を構成する575件の「認定遺産」に対して認定証とプレートを贈呈しました。更に2008年(平成20)に33件の「近代化産業遺産群 続33」と540件の「認定遺産」を認定し、2009年(平成21)2月23日に認定証とプレートの授与を行っています。 以上の認定に際しては、@幕末から第二次世界大戦前の近代化産業遺産を対象とし、A建造物はもとより、画期的な製造品及び当該製品の製造に用いられた設備機器、これらの過程を物語る文書など、産業近代化に関する多様な物件とし(復元物や模型も対象)、?主として産業の発展過程において革新的な役割を果たした産業遺産を対象とし、C上記の近代化産業遺産を地域史、産業史の物語を軸に整理・編集し、地域において活性化の取り組みに活用しやすい形の取りまとめをするという考え方で進められたものです。 そして、山形県からは、末尾に掲げる33のストーリー(物語)の中から26の遺産群が2008年(平成20)に認定されましたが表にまとめると次のようになります。 明治時代における文明開化は、東京、大阪などの大都市から徐々に地方に及んだわけですが、山形、鶴岡においても同様で、三島通庸初代山形縣県令の時代に県庁、郡役所、警察署などの権力を誇示する洋風建築物が建造され、交通・都市基盤の整備としての鉄橋、道路に架かる橋梁や隧道の整備がなされ、人材養成のための旧山形師範学校や社会生活に欠かせない旧山形県立病院の済生館などの洋風建築物が建築されるなどしたわけですが、現在に残るこれらの建造物の多くが「近代化産業遺産」として認定されたことになります。
【別紙ストーリー33】 1 近代の日本のものづくりを根底から支えた工作機械・精密機械の歩みを物語る近代化産業群 2 重工業から農林漁業迄幅広い産業を支えた蒸気・内燃機関発達の歩みを物語る近代化産業群 3 トラックにはじまり大衆車量産の基礎を築くに至った自動車産業の歩みを物語る近代化産業群 4 欧米諸国を驚愕させるまでに急成長を遂げた航空機産業の歩みを物語る近代化産業群 5 創意工夫や経営革新により発展の基礎を築いた家電製造業の歩みを物語る近代化産業群 6 先人のベンチャー・スピリットが花開き多岐に発展した化学工業の歩みを物語る近代化産業群 7 産業用としての耐火煉瓦製造の進展と原料開発の歩みを物語る近代化産業群 8 山岳・海峡を克服し全国鉄道網形成に貢献したトンネル建設等の歩みを物語る近代化産業遺産群 9 海峡をつなぎ人々や物資の往来を支え続けた鉄道連絡船の歩みを物語る近代化産業遺産群 10 全国に遍く人と物を運び産業近代化に貢献した鉄道施設の歩みを物語る近代化産業遺産群 11 山間地の産業振興と生活を支えた森林鉄道の歩みを物語る近代化産業遺産群 12 鉄道を軸とする多角経営により創造された「私鉄沿線生活文化圏」の歩みを物語る近代化産業遺産群 13 大量輸送を支えるため近代化・国産技術化が急がれた鉄橋・鋼橋の歩みを物語る近代化 産業遺産群 14 海運業隆盛の基礎となった港湾土木技術の自立・発展の歩みを物語る近代化産業遺産群 15 国土の安全を高め都市生活や産業発展の礎となった治水・砂防の歩みを物語る近代化産業遺産群 16 安全な船舶航行に貢献し我が国の海運業を支えた灯台等建設の歩みを物語る近代化産業遺産群 17 情報伝達の質・量を飛躍的に拡大させ社会変革をもたらした電気通信技術の歩みを物語る近代化産業遺産群 18 清廉な水を大量に供給し都市の生活・産業の発展を支えた近代水道の歩みを物語る近代化産業遺産群 19 旧居留地を源として各地に普及した近代娯楽産業発展の歩みを物語る近代化産業遺産群 20 社寺参詣や温泉観光・海水浴に端を発する大衆観光旅行の歩みを物語る近代化産業遺産群 21 近代社会の発展とともに花開いた都市の娯楽・消費文化の歩みを物語る近代化産業遺産群 22 質量ともに豊富な人材を供給し我が国の産業近代化を支えた技術者教育の歩みを物語る近代化産業遺産群 23 北海道に適した建設材料として建造物の近代化に貢献した赤煉瓦製造業発展の歩みを物語る近代化産業遺産群 24 道北・道東の原野と山岳を拓いて進められた産業開発と交通網整備の歩みを物語る近代化産業遺産群 25 東北地方の産業振興の基礎を築いた水資源・交通・都市基盤整備の歩みを物語る近代化 産業遺産群 26 「近代国家に相応しい首都へ」今日の東京の礎を築いた都市形成の歩みを物語る近代化産業遺産群 27 森林資源と伝統技術を基礎として他分野に発展した東海地方の木材加工工業の歩みを物語る近代化産業遺産群 28 伝統食品の近代化や新たな食文化の創造に挑んだ中部・近畿の食品製造業の歩みを物語る近代化産業遺産群 29 「商都から近代経済都市へ」産業近代化と先進的都市計画による大阪発展の歩みを物語る近代化産業遺産群 30 競争と進化の末に関西経済産業のすそ野を拡大させた都市間高速電車の歩みを物語る近代化産業遺産群 31 地域住民の熱意と努力により進められた瀬戸内海沿岸灌漑設備整備の歩みを物語る近代化産業遺産群 32 瀬戸内海沿岸の気候風土に育まれた製塩業・醸造業の歩みを物語る近代化産業遺産群 33 多様な製品開発と生産能力の向上による九州北部の窯業近代化と発展の歩みを物語る近代化産業遺産群 | |||||||||||||||||||||||||
2015年6月12日 |