「頭の体操」多湖輝さんの「教養」と「教育」 |
64回(昭和32年卒) 庄司英樹 | ||
「頭の体操」多湖輝さんの「教養」と「教育」 60年代の後半からベストセラーとなった多湖輝著「頭の体操」(光文社)を手にした方も多かったでしょう。千葉大名誉教授で心理学者多湖輝さんの訃報が3月15日から16日にかけて報じられました。 メディアの世界で超人気だった先生が90年後半に入って比較的時間がとれるようになった時にYBCラジオの朝番組の10分コーナーに毎週出演していただきました。大半は一ヶ月間の放送分を電話で収録し週一回放送するスタイルでした。 ある時、「時間がとれたので山形行きます」とスタジオから生放送されたことがありました。先生の訃報を聞いて、昼食をともにして貴重なお話を伺ったことを思い起こします。 70年代に「頭の体操」シリーズの執筆の傍らNHKの朝のワイド番組の司会をされた時のこと。全国から講演依頼が殺到したそうです。「歌手には、あの歌を聴きたい、この歌をもう一度というリクエストがほとんど。しかし講演会ではあの話を再び聴きたいということはありません。全国を飛び回り、会場ごとにふさわしい内容の話題を考えるのはまさに"頭の体操"でした。それが司会をしていたTV番組が終了になった途端、潮が引くように講演の依頼はなくなりました。TVは怖いです」笑いながら当時のエピソードを披露してくれました。 「山形は蕎麦が名物なので昼食にいかがですか」と会社近くの蕎麦屋にお誘いし、大相撲の地方巡業で山形場所の担当になった元横綱が「大盛り」を瞬く間に2枚平らげた話をして「いかがですか」と尋ねました。「では、普通もりの"かしわざる"をいただきます」 ひとくち食べた後「メニューを見せてください」「銀座ならばこの2倍の値段はいけますね」と美味しそうに食されました。 5年程前にNHKラジオ深夜便の早朝時間帯で80歳を過ぎた多湖先生の懐かしい声が流れてきました。「年齢を重ねるほど教養と教育が必要です」と語り始めました。慌てて布団の中でメモを取りました。このお話をお聞きになった方もおられるでしょう。また放送から1年ほど後に朝日新聞の「天声人語」にもとりあげられたということで、かなり流布している名言です。 中高年になって大事なのは「教養」と「教育」? さにあらず「きょうよう」は「今日、用事・用件があること」「きょういく」は「今日いく所があること」実に巧みな表現です。いつも好奇心をもち、外出することがボケないための頭の使い方なのですね。 そういえば、藤沢周平著「三屋清左衞門残日録」の主人公も隠居してから、昔通っていた道場や磯釣りに出かけ、町奉行が持ち込んでくる事件の調べに首を突っ込んでいました。 多湖さんは銀座の高齢者マンションを終の棲家にされていたということです。銀座の蕎麦屋で山形の蕎麦を思い出されたことがあるかもしれません。。 |
2016年3月16日 |