ハナミズキ(花水木)とヤマボウシ(山法師)についての雑話
五月晴れのもと、個人の庭にも、公園にも、さらには街路樹にも、ハナミズキの白や紅色の奇麗な花(※)が咲き誇って実に見事です。このハナミズキは北アメリカ原産で、花が同属の白色花を咲かせるヤマボウシ(山法師)に似るので、アメリカヤマボウシともいわれます。総苞(そうほう)の色に紅色のものがあり、アメリカの代表的な花木であるとされています。この花が日本に入ってきたのは、『米国から送られた「ハナミズキ」100年祭、日米親善のもう一つの絆(原野城治)』によると、1912(明治45 )年、当時の東京市長尾崎行雄がサクラ(ソメイヨシノ)の苗木をワシントン市に寄贈した返礼として、タフトアメリカ合衆国大統領が1915(大正4)年に、白木の苗木40本、紅木の苗木20本、合計60本を届けたのが初めてで、その後、白の苗木は日比谷公園、小石川植物園など16か所に分植されましたが、この内、2本が東京都立園芸高等学校にも植樹されました。その後、1990(平成2)年に全国的な調査をした結果、原本の多くは枯損や行方不明となり、その生育が確認されたのは、都立園芸高等学校の白木2本だけという結果となったそうです。しかし、そのうちの1本が1996(平成8)年の台風で倒れて枯れてしまったそうですから、届いた60本の苗木のうち、現在日本国内に残っているのは、都立園芸高等学校の白木1本でしかないとのことです。
一方、ヤマボウシの方は日本原産で、果実が食用となるので、山に生えるクワ(桑)という意味から別名「ヤマグワ」とも言います。ハナミズキの実はと言うと、苦くて人間は食べませんがヒヨドリなどの小鳥は好んで食するようです。ヤマボウシを「山法師」と漢字で書くのは、蕾が集合して丸くなっているのを法師の頭に見立て、白い総苞をその頭巾に見立てたものといいます。
ハナミズキとヤマボウシの花は非常に似ていますが、その判別方法は次表のようになります。
項 目 |
ハナミズキ(ミズキ科ミズキ属) |
ヤマボウシ(ミズキ科ミズキ属) |
総 苞 片 |
先端が丸みを帯びている。紅色のものがある。 |
先端がとがっている。 |
樹 皮 |
細かなひび割れが覆っている。 |
鱗状にはがれるため斑模様である。 |
果 実 |
苦味があり、人間は食しない。 |
甘味があり、人間が食する。 |
葉 っ ぱ |
葉が出てから花を咲かせる。 |
花と同時か花に先だって葉を広げる。 |
(※) 「苞」とは、「蕾」を包んでいた「葉」のことをいいますが、ハナミズキもヤマボウシも花弁(花びら)のように見える四片はいずれも「苞」で、その真ん中に集まっているのが花弁で、「総苞片」とは、すべての葉っぱが花弁のように変形されている状態を言います。
ハナミズキは街路樹にも多く植栽されており「ハナミズキ通り」と呼ばれていますが、ハナミズキの特徴としては、@イチョウやポプラなどに比べて樹高が大きくならず、しかも害虫がつきにくい、A桜の後の5月ごろに咲き、その後は葉が大きく茂り、日陰を作りやすい、B根を張りすぎて道路のアスファルトを破損することがない、C手入れが簡単で管理経費が少なくて済むなどの利点があるからです。
ハナミズキもヤマボウシも実生苗で育てることが可能ですが、接ぎ木苗に比べるとかなり大きくならないと花つきが悪いために、一般的には、ハナミズキあるいはヤマボウシの実生苗を用いた接木苗木を求めて庭などに植栽します。不思議なことにハナミズキやヤマボウシを種から育てようとした場合、ただ種を地中に播くだけではだめで、実が熟したら、すぐに果肉を取り除き、桃の実のように中心に硬い種(核)が入っていますので、それだけになるように水洗いしてから土に埋めるようにしないと発芽しません。その理由は、ハナミズキの果肉には発芽抑制物質が含まれているからです。もし、実が親木から落下し、そこで発芽したら、やがて子木は親木と競合し、共倒れとなってしまので、実の理想としては、鳥たちに目立つように自ら赤い色となり、そのうえで鳥たちに食べられ、鳥の腹の中で発芽抑制物質を洗い流してもらい(果肉を消化してもらい)、親木から遠い所に運んでもらい、種の部分を栄養となる糞と一緒に排出してもらい、そこで子孫が繁栄してゆくことを願っているのです。この不思議な自然の仕組みには感心させられます。
最後に、園芸の専門家から聞いたハナミズキやヤマボウシの実生苗木の育て方を次に掲げておきます。うまくゆけば翌年80パーセントほど発芽するそうです。
@秋に収穫した種の果肉部分を除去し水洗いします。
Aこの種を湿らせた砂やピートモス等に混ぜて保存し、早春に播くとよく発芽します。また、冷蔵庫に入れて保存する低温貯蔵という方法のほか浅箱や育苗箱などに砂を入れ、その中に種を入れて戸外に出しておく方法もあります。ただし、この場合、乾燥させないように湿らしておくことが大切です。
B 春先にプランターや鉢に種を播きますが、雑菌や病菌などが混入しないよう、砂はあらかじめ熱湯等で消毒することが必要です。
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