チューリップの花の開閉について


64回(昭和32年卒) 渡部  功
 
チューリップの花の開閉について
 郷里鶴岡の千安京田(ちやすきょうでん)にある「いこいの村庄内」には、マツ林に囲まれた東北でも最大級といわれる 4,000平方メートルの広さを誇るチューリップ畑があって、おおよそ50種、10万球といわれるチューリップがサクラの後を引き継いでゴールデンウイークには色鮮やかに咲きそろい、大勢の人々で賑わうのですが、今年は春先の低温続きによりサクラと同様開花が1〜2週間ほど遅れているようです。チューリップには一重と八重があり、花壇などに群れて咲くその華やかさは私たちの心を惹きつけて止みません。
 チューリップはユリ科の植物で普通は球根で繁殖させます。種子での繁殖も出来るのですが、この場合は、人工的に交配することで新種を誕生させることが出来るものの、花が咲くまでには5〜6年の歳月を要します。現在数多くの種類がありますが、新種として認められるのは何万球のうちの1球程度で、その1球から商品となるほどの球根数を増やすには15年ほどの年月がかかり、その間、病気や栽培方法、環境適正等を種々試験をするので、新品種誕生までには気の遠くなるような年月と莫大な手間がかかります。
 チューリップは植物の分類上、その子葉の数で分けると、子葉が一枚の「単子葉植物」(注1)という種類なので、「花弁(花びら)」は3の倍数が基本です。花は一見すると花弁が6枚に見えますが、実際は内側3枚が花弁で、「顎」(注2)3枚が花弁同様に色着き、花弁のように見えます。花弁の内側に「オシベ」が6本、先が三つに分かれている「メシベ」が1本あります。花は2週間ほど咲いていますが、咲きだして数日後に花粉が出てきます。そして花粉が落ちてしばらくすると先が三つに分かれたメシベが割れて、花粉が着く部分である「柱頭」が現れ、やがて花弁は散っていきます。このようにチューリップは、オシベだけの時期(雄性期)とメシベだけの時期(雌性期)があって自家受粉を避ける仕組みになっています。チューリップの場合、花粉が先ですからこれを「雄性先熟」といいます。
(注1)単子葉植物に対して双子葉植物がありますが、その相違点は次の通りです。
項      目 単 子 葉 植 物 双 子 葉 植 物
子葉の数 1枚である 2枚である
葉脈の模様 平行脈である(葉の筋が
平行で、あまり枝分かれしない。)
網状脈である(葉の筋が網の
目のように複雑になっている。)
花(顎片、花弁)、オシベ
メシベ等の数
3または3の倍数である。 4又は5かその倍数である。
根の様子 主根が崩壊して細い根
(髭根)を持つことになる。
太い根(主根)があり主根から
細い根(側根)が枝分れしている。

(注2)「花冠(花弁全体)」の外側にある、通常小さな葉の形をしているもの一つ一つをいいます。
 我が家の猫の額のような庭にも植えっぱなしのチューリップがあり、よく観察をしていると、その花は朝のうちは閉じていますが、気温が上昇してくるに従い開いてきて、夕方になり、気温が下がってくるとまた閉じてしまいます。この現象については、日本大百科全書・小学館によれば『花弁の基部4分の1から6分の1の部分で温度が上昇すると、まず初めに内側の細胞の成長が増加するのに対して、温度が下降すると、まず初めに外側の細胞の成長が増すために花の開閉が生じる。』とあり、今までそのように承知していたのですが、最近日本植物生理学会(事務局:京都市上京区下立売通小川東入)のホームページ「みんなのひろば」に島根大学生物資源科学部生命工学科の柴田 均教授が次のように説明されていることを知りましたので、すでにお気付きの方もおられると思いますが、その概要を紹介してみたいと思います。
 チューリップの花弁(花びら)の開閉は、光とは関係せず、摂氏20度位で開き、摂氏5度位で閉じる仕組みが備わっています。動物の体も植物の体も細胞の最も多い成分は水ですが、細胞への水の出入りには特別のチャンネル(水チャンネル)が用意されています。アクアポリンと名付けられた細胞膜に存在するたんぱく質が水チャンネルを構成しています。チャンネルなので常時開いているものではなく、水の移動が必要な時に開き、移動が不要な時には閉じます。水チャンネルが開く(活性化する)ときは、アクアポリンにある種の化学基(リン酸基)が導入されて、水が通過できる構造へと変化します。一方、この化学基が取り除かれるとチャンネルが閉じて水が通過できなくなります。この水チャンネルの存在と開閉に関する研究成果が2003(平成15)年度のノーベル賞の化学部門の受賞対象となりました(ピーター・アグレ・アメリカ合衆国・「細胞膜に存在するチャンネルに関する研究(アクアポリンの発見)」/ロデリック・マキノン・アメリカ合衆国「細胞膜に存在するチャンネルに関する研究(イオンチャンネルの構造及び機構の研究)」)。
 つまり、チューリップの開閉では、閉じていた花弁を摂氏20度位に移すと水チャンネルが活性化され、茎から花弁への水の移動が開始され、花弁の下部に水が沢山溜まり、膨圧が高くなって、チューリップの開花が誘導されます。開花している間はどんどん水が送り込まれますが、余分な水は気孔からどんどん蒸発します。チューリップが沢山の水を必要とする花であることと関連していることと思われます。夕方になって摂氏5度位に温度が下がってくると、水チャンネルに導入された化学基(リン酸基)を切り離す仕組みが働いて水チャンネルが閉じます。この後も暫く蒸散が続き、花弁から水が失われるので。膨圧が下がり、花弁が閉じるのです。
 このようにチューリップの花の開閉には気温が関係するのですが、花弁の内側と外側の細胞の成長の違いによるものでなく、アクアポリンと名付けられた細胞膜に存在するたんぱく質が水チャンネルを構成し、これの開閉による細胞内の水分の膨圧の有無によって花の開閉が生じるのです。こうした花の開閉を繰り返すうちにチューリップの花は10日間ほどで約2倍の大きさになり、やがて14日ほどで枯れていきます。
 チューリップは花壇や切り花として多く用いられますが、花による療法(フラワーセラピー)としても効果を発揮します。黄色い花は代謝機能を高め、白や桃色は精神を安定させてくれるそうです。そして、人気の赤い色の花は反射的に血を動かす働きがあるそうで、低血圧の人疲れやすい人、目眩がする人の症状を改善してくれるそうです。
 NHKの人気番組「ラジオ深夜便」では、番組の終わる翌朝5時前に、1995(平成17)年より番組独自の「誕生日の花と花言葉」を放送しています。そして、2005(平成17)年4月より1年間は、「花と花ことばにちなんだ短歌」として本県遊佐町出身の鳥海昭子(とりのうみ あきこ)・本名中込昭子(なかごめ あきこ)さんが詠んだものが紹介されました(「ラジオ深夜便・誕生日の花と短歌 365日」としてNHKから出版されています。)。
 鳥海さんは、1985(昭和60)年、歌集「花いちもんめ」で第29回現代歌人協会賞を受賞しており、親しみやすい口語的な表現と自由旋律で人間への深い愛情を情緒豊かに詠っていますが、残念ながら2005(平成17)年10月9日、心不全のために76歳で亡くなられました。チューリップについては、3月26日に次のような歌と花言葉が紹介されました。『合掌の かたちの赤い チューリップ 今日の私を やさしくします』(合掌した手をゆっくり開いたような形をしたチューリップの花、球根から芽を出し、葉を広げ茎をのばしてついに咲いた花の、大地に対する感謝の形でもあるように思うのです。)花言葉は「愛の宣告、魅惑」です。この花言葉については他にも花色によって@赤色―愛の告白、A桃色―愛の芽生え、お年頃、B紫色―永遠の愛情、不滅の愛、C黄色―望なき愛、叶わぬ愛、D白色―失恋、失われた愛、E緑色―魅惑、美しい瞳とそれぞれあるようですが、やはり愛情に関するものが断然多いようです。

2010年5月2日