ラジオ深夜便

64回(昭和32年卒) 渡部  功
 
ラジオ深夜便
 1 春・秋の「睡眠の日」
 2011(平成23)年8月10日付けの山形新聞記事は、「日本は世界の中で韓国と並び平均睡眠時間が7時間14分と最も短い国だ(経済協力開発機構(OECD)調査)」と報じていました。ちなみにフランスが最も長く8時間50分ほど、アメリカス、ペイン、ニュージーランド、トルコ、オーストラリア等が8時間30分台となっています。このような睡眠時間不足大国の状況を変えようと「睡眠健康推進機構(機構長・高橋清久元国立精神・神経センター長)」という組織が発足し、3月18日を「春の睡眠の日」、9月3日を「秋の睡眠の日」と制定し、その前後の計2週間を「睡眠健康週間」と定めたとのことです。高橋機構長は『人間には体内時計が備わっており、体のリズムを調整しているが、現代は、テレビ、パソコン、コンビニの深夜営業等で24時間社会となり、体内時計を乱している。』と警告しています。そして睡眠不足がうつ病の原因となり、また、産業や交通、医療の事故を誘発し、日本の睡眠不足による経済的損失は、年間3兆4千億円という試算を示していました。
 2 睡眠のメカニズム
 ともあれ、年を重ねると、長時間纏めて眠ることが難しくなると共に眠り自体も浅くなり、若い時に比べて格段に中途覚醒が目立つようになります。若者は熟睡し、かつ、長時間の睡眠をとれるのでうらやましい限りですが、高齢者の睡眠と若者の睡眠とを比べると、そこには大きな違いがあることが分かりました。すなわち、若い人は就寝後10分ほどで深い眠り(ノンレム睡眠の段階1及び2)に入り、それからより深い眠り(ノンレム睡眠段階3及び4)までに進むのに30分ほどしか時間がかかりません。そして、ノンレム睡眠の段階4が30分ほど続いた後、次第に眠りが浅いレム睡眠に移行します。普通若い人はこのサイクルを一晩の内に4,5回繰り返して、最後にレム睡眠に至って朝方丁度良い時間に覚醒するのだそうです。一方、高齢者は、布団に入ってから入眠までに40分から1時間ほどの時間を要し、しかも睡眠がノンレム睡眠の段階4までに進むことなく、段階2あたりをうろうろする結果、深い眠りを得ることが出来なくなるのです。また、睡眠が脳の活発な活動を単に休めるだけならば、加齢と共に身体的に色々な機能が低下しても睡眠の深い、浅いは関係ないようにも思えるのですが、そうとはいいきれないようです。なぜなら、睡眠中の脳は、単に休息をしているのではなく、覚醒時とは異なる働きをしていると考えられており、そのためには、神経伝達物質が十分分泌され、神経回路もちゃんと機能していなければならないからだそうです。夜になると生命維持に必要な働きを無意識的、反射的に調節する「自律神経」のうち、心臓の働きを抑制し、血管を拡張し腸の運動を強める「副交感神経」の働きが活発になり、心臓の働きはゆっくりとなって血圧を下げ、腸を動かして排便を促します。ですから睡眠をとっていても脳にとっては休息どころか大事な活動時間帯に当たるわけで、一方、目覚めると今度は「副交感神経」に代って「交感神経」の働きが活発となり、血圧が上がり、脳や筋肉に血液が送られたり、物事を考えたり、体を動かすのに都合よくなります。
 そのほか睡眠に関しては、ラジオや新聞などの情報では、光や体温などが睡眠に深く関係するようですが、これについてはまた別の機会に調査結果を論述してみたいと思います。
 3 ラジオ深夜便
 私の場合、ほとんどの場合、毎晩10時を過ぎると床に着くようにしていますが、70歳近くなってからは寝つきに時間を要するようになり、また、真夜中を過ぎたあたりからたびたび目が覚めてしまつたり、さらには、早暁に目覚めるようになってしまいました。しかし、私はこのような場合、無理して眠ろうとせず、NHKのラジオ番組・「ラジオ深夜便」を聴くようにしています。こうしていると知らず知らずの間に眠りにおちいってしまっていて、逆に目当てにしていた番組を聴き逃すようなことがあるのですが、睡眠を誘うにはなかなか有効な手段だと思っております。そのため私は常に枕元に携帯ラジオとイヤホーンを置いて、いつでも放送を聴けるようにしております。
 この「ラジオ深夜便」という番組は、時には選挙報道などの臨時番組により遅れることがあるものの、通常は23時20分から放送が始まり、アンカーと呼ばれるアナウンサーが一人で夜っぴて語り、また、対談の司会を担当し、翌朝5時にその放送を終えるものです。ただ、最近は、東日本大震災の余震が度々起こるため、番組が中断される場合が多くなって肝心の内容が途切れる場合が多々あります。
 番組の開始直後は、全国各地の特配員による地域の情報報告などがあり、1時過ぎにはアンカーと著名人との対談、2時から4時ごろまでの間は、クラシック、シャンソン、タンゴ、演歌などの音楽番組が、時には藤沢周平の作品朗読、落語、浪曲、謡曲等の多彩なプログラムを楽しむことが出来ます。時報ごとにニュースがあり、地震や事件発生時にはその都度速報が流れます。
 4時を過ぎると「明日へのことば」(平成22年度までは「心の時代」と呼んでいました。)が始まり人生体験に関しての教訓的な話や歴史秘話などの対談番組となります。5時ちょっと前には「誕生日の花」と「その花言葉」の解説並びに「その花に関する一句」の披露があって放送の結びとなります。
 2009(平成20)年1月4日、5日の「心の時代」では「くらげが蘇らせた水族館」と題して 鶴岡市立加茂水族館の村上龍男館長が、『閉館の危機にあった時期に、なんとか再興しようと努力して「クラゲの展示」を行ったところ、経営的に息を吹き返したこと、小さい施設だからこそ他とは異なる特色を生み出す努力が必要であること、絶えず研究努力を怠らぬこと、人生決してあきらめてはいけないこと』等について淡々と話をしたのですが、なかなか感銘深い内容でした。
 4 特集・作家五木寛之の歌旅びと「山形編」
 今年度からは4年ほど続いた作家・五木寛之の歌謡曲の歴史的変遷を解説した4時の時間帯の「わが人生の歌がたり」に代って4月からは「特集・作家五木寛之の歌旅びと』が始まりました。この番組は、須磨佳津江アンカーと五木寛之が対談しながらその県に関わる歌を聴きながらその県の思いでなどについて語り合うもので、4月から毎月1回、年12回、都合4年の歳月をかけて47都道府県を順次巡る企画です。去る6月26日の4時からの1時間番組として、第1回及び2回の"京都編"に続いて第3回"山形編"の放送があり、その後、熊本、長野、岩手と放送を終えています。
 山形編の時は放送開始と同時に目覚め、放送を聴きながらメモを取ることが出来ましたので、当日の放送内容を紹介してみたいと思います。放送では、五木さんがラジオ歌謡としてはナンバーワンという中田喜直(以下登場人名の敬称を省略します。)が鶴岡の町で曲をイメージしたといわれる「雪の降る街を」、酒田出身の岸洋子の「希望」、ボルガの舟歌に勝るとも劣らないといわれる労働哀歌・「最上川舟歌」が話の合間に流され、山形市の八文字屋、文化の輸入港・酒田港と北前船、山形の美しい山河、修験道の山を初めとする由緒ある社寺、山の幸、海の幸、県民性などの話が五木さんからあったのですが、特に、『山形は、明るく洗練された独特の文化の香りがする県だと思う』という、びっくりするような嬉しい発言がありました。また、元東北芸術工科大学の赤坂憲雄教授の提唱した「東北学」はその後生まれた「津軽学」、「盛岡学」、「仙台学」などに先駆けたものであり、1950年代、余目(現庄内町余目)の農村部の「若勢」が労働組合を作ったのも東北では初めてである旨の話が続きました。
 更に、『山形は、北あるいは西からの文化の輸入港・酒田港があり、外部の刺激に敏感で、山間部には宗教の道場や霊場等も多かったので教養度も高く、従って芸術家や作家など、優れた人物を輩出したのではないか。山形には和歌や、俳句のサークルがとても多い。』との感想があり、斎藤茂吉、土門 拳、井上ひさし、本校の大先輩である丸谷才一(昭和18年3月・第51回卒)や藤沢周平(本名:小菅留治、昭和21年3月・定・16回卒)の名を挙げました。
 また、郷里の梵字川と赤川の名称についての宗教的な解釈は非常に興味深い話もありました。すなわち、ラテン語では「水」を「aqua(アクア)」といい、また、古代インド語では仏に備える聖なる水のことを「閼伽水(あかみず)というので、赤川の「赤」はこれらからきたものではないかと言うのです。そして、落合で赤川に合流する月山を水源とする梵字川の「梵字」は仏典を書き記したサンスクリットのことなのであながちこのことは根拠のない話ではないというものでした。そのほかには、図書館併設のユニークなさくらんぼ東根駅や柏戸関、琴の若関などの県出身の関取の紹介等がありましたが、止めの一言は、『山形は何が産物かと言えば、それは人間である。美しい山と川が素晴らしい文化を育てる。』と言うものでした。多分に世辞があったと思いますが、県民としては嬉しい一言でした。
 五木さんは20代の終わりごろ、農業関係の雑誌の取材記者をしており、果実など農産物の自由化が国際問題になったとき、ルポルタージュするために山形を再三訪れており、また、山寺には母上の供養のため、卒塔婆に戒名を書いて奉納している関係もあって、山形には特別な思いを抱いているとのことでした。
 最後に曲の披露が終わってから歌い手の種明かしをするということで、五木寛之作詞、故三木たかし作曲の「昼の花火」というシャンソンが放送の締めでした。種を明かした歌い手は、山形市出身の俳優・劇作家で演出家、劇団「オフィス3○○(さんじゅうまる)を主宰する渡辺えりさんでした。最近のテレビのお笑い番組やニュース番組でお馴染の彼女ですが、いままで彼女の歌は聴いたことはありません。しかし、舞台女優という職業柄でしょうか、彼女のその歌唱は感情がうまく表現されていてとても聴かせるものでした。関連して伴淳三郎、あき竹城、ケーシー高峰等の芸能人の名前も挙がりました。
 5 ラジオ深夜便のファン達
 ラジオ深夜便では、放送の途中で随時リスナーからの投書などが披露されるのですが、これを聴いているとこの番組のファンの多さには驚かされます。特に孤独な老人達がこの番組によって、生きていることの喜びを感じ、暗闇の中の孤独から救われ、番組を通じての繋がりによって心が癒されている様子がその投書の内容からよくわかります。また、投稿者に常連が多いのにも驚きます。このようにファンが多いことがこの番組を本放送開始(1990(平成2)年)以来20年という長寿番組にしている理由なのでしょう。
 私も毎回毎回夜通し放送を聴いているわけではありませんが、「ラジオ深夜便」は好きな番組の一つです。
  
2011年10月1日